高血圧

血圧とは

血液は、心臓のポンプ作用によって全身に送り出されます。
その心臓から送り出された血液が、血管内を流れるときに血管の壁に与える圧力を‘血圧’と言います。
血液が心臓から送り出される時、すなわち心臓がぎゅっと収縮して、血管への圧力が最も高くなった時を「収縮期血圧(最高血圧)」と言います。反対に、全身から心臓に戻ってきた血液が、心臓にため込まれて膨らんでいる時を「拡張期血圧(最低血圧)」といいます。

血圧は 「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗」で表わされます。 
① 心拍出量:1分間に心臓から送り出される血液の量のこと。1回拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液量)と心拍数の積で求めることが出来ます。
② 末梢血管抵抗:末梢血管(毛細血管)に血液が流れるときに血管が受ける抵抗、すなわち流れにくさのこと。動脈硬化により血管の内腔が狭くなることや交感神経が高まることなどで末梢血管抵抗が増加します。
その他にも、循環血液量(体の中を循環している血液の量)や血液の粘着度(血液の濃さ)などが影響します。

高血圧

高血圧は繰り返し測っても血圧が正常より高い状態です。
年齢や合併症により基準は異なりますが、一般的には診察室で計測した収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上の場合に診断されます。ただし、医療機関で血圧を測ると、いつもよりかなり数値が高くなる方(白衣性高血圧)もいます。自宅での日常環境の中で測定する方が、安定した状態で血圧測定が出来ることから、家庭での測定した血圧を基準にすることが推奨されています。

高血圧は、「本態性高血圧」と「二次性高血圧」があります。
「本態性高血圧」は高血圧の90%を占め、遺伝的な要素と、肥満や過剰な塩分摂取、過剰な飲酒や運動不足、ストレスなどの環境的な要素、体質や加齢などが関係しています。
「二次性高血圧」は血圧が上昇する原因となる病気がはっきりしている場合です。血圧の調整には腎臓の血流やホルモンが重要な役割を果たしており、腎臓の血管の異常やホルモン異常によって高血圧が生じることがあります。その他、睡眠時無呼吸症候群の影響や薬による高血圧もあります。二次性高血圧の場合には、これらの原因の治療をすることで、高血圧が改善する可能性があります。

高血圧の症状

多少血圧が高くても、自覚症状はほとんど現れません。血圧がかなり高くなると、頭痛やめまい、肩こりなどの症状が出ることがありますが、これらの症状は高血圧以外でも現れるため、特徴的な症状ではありません。
よって、日頃から自宅で血圧を測定したり、定期的に健康診断を受けていただいたりする事が大切です。

高血圧のリスク

高血圧症の状態が続くと、動脈硬化が進んでいきます。この動脈硬化によりさまざまな病気を引き起こす危険があります。

心疾患:狭心症、心筋梗塞、心肥大、心不全
脳卒中:脳出血、脳梗塞
腎臓:腎硬化症、腎不全
眼:高血圧性網膜症
血管:大動脈瘤、急性大動脈解離、末梢動脈疾患    
など

これらのリスクを軽減するにも、定期的な血圧測定(モニタリング)を行い、適切な治療を行うことが大切です。

高血圧の治療

二次性高血圧の場合には原因となる病気の治療を行います。
本態性高血圧の治療は、生活習慣の改善(運動療法・食事療法)と薬物療法(降圧薬)が基本となります。
一度飲み始めたら止められないから、と薬を飲み始めることをためらう方は多くいらっしゃいます。もちろん高度の高血圧の場合はすぐに薬物療法をご提案する場合もありますが、まずは生活習慣の改善により血圧の改善を目指し、自宅でも血圧の測定を実施していただきたいと思います。その上で血圧の改善が見られない場合に薬物療法を検討していきます。
そして、薬を飲んでいる方も、日常から減塩を心がけるなど生活習慣の改善を平行していく事がとても大切です。

生活習慣の改善

減塩

梅干し、漬物、みそ汁、干し魚、醤油などには塩分が多く含まれています。塩分は体に必要なミネラルの一つですが、摂り過ぎると体内に水分を蓄積し、血圧が上昇する可能性があります。 日本高血圧学会では、1日の塩分摂取量を6g未満にすることを推奨しています。低塩の調味料に切り替える、干し魚は湯煮して塩分を抜いて摂る、めん類の汁は残すなどの工夫が大切です。

ストレスの軽減

精神的なストレスや緊張は自律神経に影響を与えて血圧を上げる傾向があります。同様に、重労働や過労などの肉体的なストレスも血圧を高める可能性があります。仕事や育児、学業などでストレスが蓄積しやすい状況では、なるべくリラックスが出来る対処法を見つけていただく事が大切です。

・ゆっくり入浴する、十分な睡眠時間を確保するなどして休息をとる
・散歩やラジオ体操などの軽い運動をして気分転換を図る
・人に悩みを話すなどしてストレスを発散する

など、ストレスの全くない生活は難しいですが、できるだけストレスを軽減する心がけをしていきましょう。

温度差(寒さ)を防ぐ

暖かい場所から急に寒い場所に出ると、血管が収縮し、血圧が上がります。
・冬の外出時は手袋やマフラー、カイロなどを使用し、できるだけ体が冷えないようにする
・室内においては、入浴前に脱衣所や浴室を暖めておき、熱すぎない湯温(41度以下)に設定する
などの工夫が大切です。

飲酒を控える

適量のお酒はストレスの解消や食欲の増進につながりますが、毎日の過剰な飲酒は血圧を上げてしまいます。また、お酒のおつまみは塩分が多くなりがちです。お酒を適量に抑える(男性の場合はビールなら350ml缶1本、日本酒なら1合程度。女性はその半量程度。)、おつまみも減塩に心がけることが重要です。

禁煙

タバコに含まれるニコチンには、強力な血管収縮作用があると言われており、血圧が15分以上上昇すると言われています。高血圧だけでなく、動脈硬化やがんのリスクにもなります。タバコはやめましょう。

適度な運動

運動制限のない方は、適度な有酸素運動(散歩や軽いジョギング、ラジオ体操、自転車など)がよいとされています。運動により血液の流れをよくし、肥満の防止にもつながります。

十分な睡眠

十分な睡眠時間の確保に加え、睡眠の質も大切です。睡眠は副交感神経が優位になることで、心身共にリラックスし、身体を休めるだけでなく、血圧も下がります。カフェイン摂取を控え、入眠と起床の時間を一定にするなどの心がけをしましょう。
また、睡眠時無呼吸症候群の方は高血圧を引き起こすとされています。睡眠中に何度も呼吸が止まる、いびきが大きい、日中に疲れやすいなどの症状がある場合には医療機関に相談ください。

薬物治療

高血圧の薬物療法は、血圧を下げる薬=降圧薬を使用します。以下の通り、降圧薬にはさまざまな種類があります。
基本的には1種類から開始し、必要に応じて他の降圧薬を追加などしていきます。

降圧薬の種類

  1.  カルシウム拮抗薬
    血管を拡張させ、血液の流れをスムーズにすることで血圧を下げます。
  2. アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
    アンジオテンシンⅡは体内で作られる物質で、血管を収縮させたり、血液量を増やしたりする作用があるため、血圧を上げる働きをします。このアンジオテンシンⅡは受容体にくっついてはじめて働くことが出来るため、この受容体と結合することを妨げることによって血管を拡張させて、血圧を下げます。
  3. アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)
    先述したアンジオテンシンⅡが作られるのを妨げる薬です。これによりアンジオテンシンⅡが働けなくなり、血管が広がり血圧が下がります。
  4. 利尿剤
    腎臓の役割の一つである、塩分と水分を体の外へ出す働きを促して、血圧を下げます。
  5.  α遮断薬
    血圧を上げる神経の働きを抑えることで、血管が広がり血圧を下げます。
  6.  β(ベータ)遮断薬
    心拍数を減少させたり、心臓の収縮を調整したりすることで、心臓の負担を軽くし、血圧を下げます。

上記の薬を病状や合併症などさまざまな要素を踏まえて処方していきます。
比較的安全に使用できる薬がほとんどですが、副作用などもあるため、何か気になることがあれば自己判断での中断は控えていただき、医師にご相談ください。