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【胸が痛いのに異常なし?】「INOCA(非閉塞性冠動脈疾患)」とは

循環器内科

胸が痛いのに「異常なし」と言われたことはありませんか?

「胸が締めつけられるように痛い」「階段を登ると胸が苦しくなる」――
こうした症状があると、「狭心症」や「心筋梗塞」が疑われます。
しかし、病院で心臓のカテーテル検査(冠動脈造影)を受けても、「血管は詰まっていません、大丈夫です」と言われた。
そんな経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。

近年、このような「胸の痛みがあるのに、心臓の血管(冠動脈)に明らかな詰まりがない」ケースに対して、新しい病気の概念「INOCA(イノーカ)」が注目されています。


INOCAとは?〜狭心症の“見えない原因”〜

INOCAは、
"Ischemia with Non-Obstructive Coronary Arteries"(非閉塞性冠動脈に伴う虚血)の略で、
冠動脈に大きな狭窄(詰まり)は認められないのに、心筋への血流が不足して胸痛などの症状を引き起こす病気です。

🔍 INOCAの特徴

  • 胸痛などの狭心症様症状がある

  • カテーテル検査では、冠動脈に明らかな狭窄が見られない

  • ・心筋虚血(血流不足)が存在する

  • 特に女性に多い


INOCAの主な原因とは?

INOCAの原因には、次の2つのタイプが多くを占めています。

① 微小血管狭心症(MVA:Microvascular Angina)

心臓の表面を走る大きな血管(冠動脈)ではなく、その**枝分かれした非常に小さな血管(微小血管)**がうまく働かないため、血流が不足する状態です。

  • 冠動脈造影では異常が見えない

  • 自律神経や内皮機能障害(血管を拡げる働きの低下)などが関与

  • 女性に多い

② 冠攣縮性狭心症(VSA:Vasospastic Angina)

冠動脈が一時的にけいれん(スパズム)を起こし、血流が止まることで起こる狭心症です。

  • ・一過性の強い胸痛が特徴

  • ・夜間や早朝、ストレス時に起こりやすい

  • ・喫煙や寒冷刺激、飲酒も誘因に


INOCAの主な症状は?

  • ・胸の痛み・圧迫感(労作時や安静時どちらでも起こる)

  • ・息切れ

  • ・疲れやすさ

  • ・不安感や動悸を伴うことも

※心電図や心エコーでは異常が出ないことも多いため、「気のせい」「自律神経のせい」と誤解されやすいです。


INOCAの検査・診断

基本検査

  • 心電図

  • 心エコー

  • 上記の検査は当院で可能です。
  • 運動負荷試験

  • 冠動脈CT、心筋シンチグラフィーなど

  • ※これらの検査が必要な場合は基幹病院へご紹介いたします

専門的な検査

  • 冠動脈造影+機能評価(血流予備能、冠攣縮誘発試験など)

    • アセチルコリンやエルゴノビン負荷により冠動脈のスパズムを誘発

    • IMR(微小血管抵抗の指標)などの数値化も行われる


INOCAの治療法

INOCAの治療では、原因に応じて薬物療法と生活習慣の見直しを行います。

💊 薬物療法

  • ・カルシウム拮抗薬(冠攣縮に効果)

  • ・硝酸薬(血管拡張作用)

  • ・β遮断薬(症状によって選択)

  • ・抗不安薬(心因性の要素が強い場合)

🏃‍♂️ 生活習慣の改善

  • ・禁煙

  • ・規則正しい生活

  • ・ストレス管理

  • ・バランスの取れた食事と適度な運動


INOCAは「気のせい」ではありません

INOCAは、「検査で異常が出ないから問題なし」と思われがちですが、決して気のせいではなく、れっきとした“心疾患”です。
放置すれば生活の質が低下し、場合によっては心不全や心筋障害のリスクもあります。

「検査では異常がないのに胸が痛い」「息切れがつらい」――
そんなときこそ、INOCAの可能性を考慮した専門的な診断と治療が重要です。


おわりに|こんな症状がある方はご相談を

  • 胸の痛みがあるが、検査で異常がないと言われた

  • ・繰り返す動悸や息切れがある

  • ・女性でストレスが多い生活をしている

  • ・「年のせい」「気のせい」と片付けられてつらい

当院では、狭心症や心筋虚血の精密検査・治療に対応しており、INOCAを含む見えにくい心疾患の診断・治療にも力を入れています。必要であれば基幹病院へ紹介いたします。
お困りの症状がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。