中性脂肪を下げる薬と心臓病予防のエビデンスを解説 エパデールとロトリガの違いとは?
はじめに
健康診断や人間ドックで「中性脂肪が高い」「コレステロールが高い」と指摘され、再検査や治療を勧められる方は年々増えています。
脂質異常症は放置すると動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気につながるため、適切な治療が欠かせません。
脂質異常症の治療薬といえばスタチンが有名ですが、実は日本で開発され世界的にも注目されているのがEPA製剤(魚油由来の薬)です。
代表的な薬が エパデール®(イコサペント酸エチル) と ロトリガ®(オメガ3脂肪酸エチル:EPA+DHA) です。
本記事では、この2つの薬の効果・副作用・エビデンスの違いをわかりやすく解説し、どのような人に必要かを整理します。
1. エパデールとロトリガの成分の違い
まず両者の基本的な違いを整理してみましょう。
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・エパデール
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一般名:イコサペント酸エチル(EPAのみ)
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日本で開発された薬
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中性脂肪を下げ、心筋梗塞や脳梗塞の予防効果が証明されている
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・ロトリガ
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一般名:オメガ3脂肪酸エチル(EPA+DHA)
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欧米では「Lovaza®」「Omacor®」として使用されている製剤
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中性脂肪低下作用が強いが、心臓病予防効果ははっきりしていない
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👉 ポイントは EPA単剤か、EPA+DHAの混合か です。
2. 効果の違い
エパデール
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中性脂肪を下げる
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血小板凝集を抑制 → 血液をサラサラにする
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血管内の炎症を抑える
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心筋梗塞や脳梗塞の再発予防効果が大規模研究で証明済み
ロトリガ
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中性脂肪を大きく下げる効果がある
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HDLコレステロールを上昇させる作用も期待できる
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ただしLDLコレステロールを上げてしまうことがある
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心血管イベント抑制の明確なエビデンスは乏しい
3. エビデンスの違い
薬の価値を決めるのは「実際に病気や死亡を減らす効果があるかどうか」です。
エパデール(EPA単剤)
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JELIS試験(2007, Lancet)
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日本人 18,645人を対象
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スタチン単独 vs スタチン+EPA 1800mg
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冠動脈イベント19%減少(特にTG高値・HDL低値の群で効果大)
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REDUCE-IT試験(2018, NEJM)
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米国・欧州の高TG患者 8179人対象
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EPA高用量(4g/日) vs プラセボ(偽薬)
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心血管イベント25%減少(心筋梗塞・脳卒中・心血管死など)
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👉 世界的に「EPA単剤=心血管イベント抑制に有効」と認められています。
ロトリガ(EPA+DHA)
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OMEGA試験、VITAL試験、ASCEND試験などの大規模研究では、心血管イベント抑制効果は有意差なし。
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TG低下は明らかにあるものの、「心臓病を防げるかどうか」はエビデンス不足です。
👉 つまり「心血管イベント予防目的」ならエパデールの方が信頼性が高いと言えます。
4. 副作用と注意点
両者とも比較的安全な薬ですが、注意点もあります。
エパデール
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胃部不快感、下痢、魚のようなにおいのげっぷ
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出血傾向(鼻血、あざ)
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肝機能異常(まれ)
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抗血小板薬や抗凝固薬と併用中は注意
ロトリガ
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同様の消化器症状
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出血傾向
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LDLコレステロール上昇に注意
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TGを強力に下げたいときに使うが、心臓病予防効果は限定的
5. どのような方に使われるか?
エパデールが向いている方
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心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方
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スタチンを飲んでいても中性脂肪が高い方
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動脈硬化が進んでいる方
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糖尿病や高血圧などリスクが重なっている方
ロトリガが向いている方
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中性脂肪が著しく高い方(500 mg/dL以上)
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急性膵炎のリスクがある方
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TGを早く強力に下げたいとき
👉 まとめると、「心臓・脳の病気予防」ならエパデール、「膵炎予防を含むTGの大幅低下」ならロトリガと使い分けられています。
6. 食事・生活習慣との関係
エパデールやロトリガは魚油由来のEPA・DHAを主成分とした薬ですが、実際には日々の食事や生活習慣の改善がベースになります。薬だけに頼るのではなく、生活全体を見直すことが、動脈硬化や心筋梗塞・脳梗塞の予防には欠かせません。
① 食事とEPA・DHAの摂取
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EPA・DHAが豊富な食品
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青魚:イワシ、サバ、サンマ、アジ、ブリなど
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鮭、マグロのトロ部分など
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日本人の平均EPA+DHA摂取量は約1g/日程度とされますが、研究で心血管リスク低下が期待できる量は1.8〜4g/日とされており、食事だけでは不足しやすいのが現実です。
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特に若い世代では魚より肉を食べる傾向が強く、EPA摂取量は減少傾向にあります。
👉 そのため、薬として高純度EPAを補うことに意味があるのです。
② 中性脂肪を下げるための食事ポイント
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・糖質の摂りすぎに注意
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ご飯・パン・麺類・甘い飲み物を摂りすぎると中性脂肪が上がります。
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特に清涼飲料水やジュースは中性脂肪を急上昇させるので要注意。
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・アルコールの飲みすぎを避ける
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お酒は中性脂肪を増やす大きな要因。特にビールや日本酒は影響が強い。
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「休肝日」を設けることも重要です。
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・食物繊維をしっかり摂る
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野菜、海藻、きのこ、豆類は血糖上昇を緩やかにし、中性脂肪の増加を抑えます。
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・良質な油を選ぶ
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オリーブオイル、菜種油、えごま油なども適量なら有用です。
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③ 運動習慣
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中性脂肪を下げるには有酸素運動が効果的です。
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目安は 週に150分以上の中等度運動(例:1日30分の速歩を週5日)。
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階段を使う、通勤を歩く、家事を積極的にするなども立派な運動です。
④ 体重管理
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肥満は中性脂肪・LDL上昇の最大要因。
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体重を5%減らすだけでも中性脂肪は大きく改善します。
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BMI 25以上の方は、まず「体重を2〜3kg減らす」ことから始めるのがおすすめです。
⑤ 禁煙と節酒
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喫煙は動脈硬化を進め、EPAの効果も減弱させるといわれています。
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アルコールは少量なら血管に良いとされますが、過剰摂取は中性脂肪を悪化させます。
まとめ:生活習慣と薬のバランス
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・魚中心の食事を心がけ、糖質・アルコールを控える
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・適度な運動と体重管理
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・禁煙と節酒
こうした生活習慣の改善は薬と相乗効果を生み出し、心臓病や脳梗塞のリスクを大幅に下げることがわかっています。
7. 当院での治療体制
たに内科・循環器・消化器クリニックでは、循環器専門医と消化器専門医の2名体制で、脂質異常症の治療にあたっています。
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・動脈硬化の評価(頸動脈エコー、心エコー、心電図、血液検査)が院内で可能
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・中性脂肪やコレステロールの状態に応じて、エパデール・ロトリガを含む薬物治療を選択
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・心臓病や消化器疾患まで一貫して診療
「健診で中性脂肪が高いと言われた」「心筋梗塞や脳梗塞を予防したい」という方は、ぜひご相談ください。
文責 たに内科・循環器・消化器クリニック 循環器内科専門医 総合内科専門医 谷信彦
引用文献
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1.Yokoyama M, et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS). Lancet. 2007;369:1090–1098.
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2.Bhatt DL, et al. Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia (REDUCE-IT). N Engl J Med. 2019;380:11–22.
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3.Manson JE, et al. Marine n–3 fatty acids and prevention of cardiovascular disease and cancer (VITAL). N Engl J Med. 2019;380:23–32.
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4.ASCEND Study Collaborative Group. Effects of n-3 fatty acid supplements in diabetes mellitus. N Engl J Med. 2018;379:1540–1550.
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5.日本動脈硬化学会「脂質異常症治療ガイドライン2022」