健診で「心雑音」と言われたら? 〜放置せずに確認すべき理由〜
はじめに
健康診断や人間ドックで「心雑音があります」と指摘され、驚かれる方は少なくありません。
「自覚症状はないけれど大丈夫なの?」「放置しても平気?」といった不安を感じる方も多いでしょう。
心雑音は、心臓の弁や血流の異常などを示す“サイン”である場合があります。
この記事では、健診で心雑音を指摘された際に知っておくべきポイント、原因疾患、必要な検査、受診のタイミングなどを詳しく解説します。
1. 心雑音とは?
心臓は「ドックン、ドックン」という規則正しい音を立てて拍動しています。
この音は、心臓の4つの弁(僧帽弁・大動脈弁・三尖弁・肺動脈弁)が開閉する際の音です。
しかし、血液が弁や心室の間を乱流(渦巻くような流れ)として通過すると、通常の心音に加えて「ザーッ」「ヒュー」といった異常な音(心雑音)が聴かれることがあります。
医師が聴診器で心臓の音を聞き取る際、こうした音を確認して「心雑音あり」と記載するのです。
2. 心雑音には「生理的」と「病的」がある
健診で指摘された心雑音のすべてが病気というわけではありません。
心雑音には大きく分けて2つのタイプがあります。
(1)生理的心雑音(機能性心雑音)
心臓や弁に異常がないにもかかわらず、一時的に血流が速くなることで聞こえる雑音です。
例えば、
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発熱や貧血
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成長期の小児
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妊娠中や甲状腺機能亢進症
などでは、血液が勢いよく流れるために一時的に雑音が生じます。
この場合、心エコー検査で構造的な異常がなければ特に治療は不要です。
(2)病的心雑音
弁膜症や心筋症などの心臓の構造的異常によって生じる雑音です。
原因疾患には次のようなものがあります。
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・大動脈弁狭窄症
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・大動脈弁閉鎖不全症
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・僧帽弁閉鎖不全症
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・僧帽弁狭窄症
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・心室中隔欠損症(先天性)
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・肥大型心筋症 など
これらはいずれも、放置すると心不全や不整脈、失神、突然死のリスクを高めることがあります。
3. 心雑音を放置してはいけない理由
健診で「心雑音あり」と書かれていても、症状がないとつい放置しがちです。
しかし、次のような理由から専門的な評価が必要です。
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弁膜症は徐々に進行することが多く、初期は無症状でも重症化すると息切れや浮腫が出現する
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雑音の強さと病気の重症度は必ずしも一致しない
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高齢者では動脈硬化に伴う大動脈弁狭窄症が増加しており、60歳以降では要注意
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放置すると心不全や心房細動の原因になることもある
4. 心雑音を指摘されたときに行う検査
(1)心電図
不整脈や心肥大の有無を確認します。ただし、弁の異常自体はわかりにくいため、次の心エコーが重要です。
(2)心エコー(心臓超音波検査)
心臓の弁や壁の動きをリアルタイムで観察できる検査です。
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・弁の開閉の様子
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・血液の逆流の程度
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・心臓の大きさや収縮力
これらを評価することで、弁膜症の種類や重症度を正確に判断できます。
痛みもなく、放射線被曝もありません。
(3)胸部X線検査
心臓の大きさや肺うっ血の有無を確認します。
(4)血液検査(BNPやNT-proBNP)
心臓に負担がかかっているかどうかを評価します。
5. 症状が出たら要注意
次のような症状がある場合は、弁膜症が進行している可能性があります。
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・階段や坂道での息切れ
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・足のむくみ、体重増加
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・動悸や不整脈感
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・胸の圧迫感や失神発作
こうした症状がある場合、早めの循環器専門医受診が必要です。
6. 治療の基本方針
弁膜症などの病的心雑音の場合、治療方針は重症度と症状の有無によって異なります。
軽症
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定期的な心エコーによる経過観察
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高血圧・脂質異常症のコントロールが重要
中等症〜重症
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薬物療法(利尿薬やACE阻害薬など)で心臓への負担を軽減
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必要に応じて弁形成術・弁置換術などの外科的治療を検討
最近ではカテーテルを使ったTAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)など、体への負担が少ない治療も増えています。
7. 健診後の流れと受診の目安
健診で「心雑音あり」と書かれていた場合は、次のように行動しましょう。
状況 | 推奨される対応 |
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症状なし・初めて指摘された | 早めに循環器内科で心エコー検査を受ける |
症状あり(息切れ・むくみ・動悸など) | 速やかに受診(放置厳禁) |
既往に弁膜症あり | 定期的な心エコーでフォローアップ |
8. 一宮市での心雑音精査なら
たに内科・循環器・消化器クリニックでは、心エコー検査を院内で専門の技師が実施しています。
循環器専門医が、健診での「心雑音」指摘に対して弁膜症や心筋症の有無を評価し、必要に応じて総合病院との連携も行っています。
また、高血圧・脂質異常症・糖尿病など、弁膜症を悪化させる生活習慣病の総合的な管理も可能です。
「健診で心雑音と書かれて心配」という方は、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
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・健診での「心雑音」は、放置せず原因を確認することが重要
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・生理的な場合もあるが、弁膜症など重大な疾患が隠れていることも
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・心エコー検査で早期発見・早期治療が可能
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・自覚症状がなくても、一度は循環器専門医による評価を受けましょう
たに内科・循環器・消化器クリニック 循環器内科専門医・総合内科専門医 谷信彦
参考文献
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1.日本循環器学会:弁膜症の診断と治療に関するガイドライン(2021年改訂版)
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2.日本心エコー図学会:心エコー図検査ガイドライン 2023
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3.Nishimura RA, et al. "2017 AHA/ACC Focused Update on the Management of Patients With Valvular Heart Disease." Circulation, 2017.
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4.厚生労働省 e-ヘルスネット:「心雑音」