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動悸の際に疑うべき循環器の病気とは?

「動悸(どうき)」とは、自覚的に心臓の拍動を強く、速く、あるいは不規則に感じる状態を指します。
通常、私たちは心臓の拍動を意識することはありませんが、拍動が乱れる・強くなる・速くなるなど変調があると、「ドキドキ」「バクバク」「トクントクン」と自覚し、不快感を感じます。

 

【1】動悸の主な原因

■ 心房細動(AF)

心房が無秩序に震えることで心拍が不規則かつ速くなり、動悸の原因となります。高齢者や高血圧、糖尿病のある方に多く見られ、血栓ができやすく脳梗塞のリスクが高まります[1]。

■ 発作性上室性頻拍(PSVT)

突然心拍数が速くなり、数分〜数時間続いたのち、急に止まる不整脈。若年層にも多く、頻度が高ければ薬物治療やカテーテルアブレーションで治療可能です[1]。

■ 心室性・上室性期外収縮

「脈が飛ぶ」「一瞬止まる」などの症状で、健常人にも見られます。頻発や背景疾患がある場合は精査が必要です[1]。

■ 洞性頻脈・POTS

ストレスや自律神経の乱れによる一時的な頻脈や、起立性頻脈症候群(POTS)などが原因のこともあります。若年女性に多く、生活指導や薬物療法が効果的です[5]。

■ 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

甲状腺ホルモンが過剰になると、交感神経が刺激され心拍数が増加します。特にバセドウ病では、動悸に加えて手の震え・発汗・体重減少などがみられます。
高齢者では「動悸のみ」の初発で気づかれることもあり、心房細動と合併することもあるため注意が必要です[2]。


■ 貧血

血液中の酸素運搬能力が低下し、心臓が代償的に強く拍動することで脈が速くなったり、動悸を感じやすくなります。特に慢性的な鉄欠乏性貧血は女性に多く、疲労感・息切れ・めまいを伴うことがあります[3]。

 


 

動悸の背景には心臓由来と非心臓由来(内分泌・血液)の疾患が共存することがあり、循環器内科に加えた全身的なアプローチが必要です。


【2】動悸を伴う心疾患

■ 狭心症・心筋梗塞

動悸に胸痛・息切れ・冷や汗を伴う場合は、心筋虚血の可能性があり、早急な診察が必要です[1]。

■ 心不全

動悸とともに息切れ・むくみ・体重増加・夜間呼吸困難がある場合、心臓のポンプ機能低下が疑われます[4]。


【3】当院で可能な検査

当院では以下の検査が可能です:

  • 心電図検査(12誘導):即日実施、不整脈の有無を確認

  • ホルター心電図(24時間~7日):日常生活中の心拍を長時間記録

  • 心エコー検査:心臓の構造・弁・収縮力を評価

  • 血液検査:甲状腺機能・貧血・電解質異常をスクリーニング


【4】治療について

動悸の治療は、「原因が何か」によって大きく異なります。以下では、動悸の原因となる代表的な疾患とその治療方針を詳しくご紹介します。


● 心房細動の治療

  • 抗凝固療法:脳梗塞を予防するためDOAC(エリキュース®、リクシアナ®など)やワルファリンを使用

  • レートコントロール:β遮断薬やジギタリスで心拍数を安定化

  • リズムコントロール:抗不整脈薬またはカテーテルアブレーションによって正常リズム(洞調律)を維持[1]


● PSVT(発作性上室性頻拍)の治療

  • 軽症であればバルサルバ法などの迷走神経刺激法を試行

  • 頻発例ではベラパミルβ遮断薬で発作を抑制

  • 根治目的ではカテーテルアブレーションが第一選択[1]


● 頻発する期外収縮の治療

  • 生活習慣改善:カフェイン、アルコール、喫煙、ストレスの見直し

  • β遮断薬などの使用は、症状が強い場合や器質的心疾患の合併がある場合に適応[1]


● 心不全の治療

  • 基本は内服治療の併用:利尿薬、ACE阻害薬/ARB、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)

  • 心エコーで左室機能や弁疾患を評価し、重症度に応じて心不全チームと連携[4]


● 甲状腺機能亢進症

  • 抗甲状腺薬(メチマゾール:MMI)が第一選択

  • 症状が強い場合は一時的に**β遮断薬(プロプラノロールなど)**を併用して動悸を抑える

  • 必要に応じて基幹病院へ紹介の上、治療を行います。


● 貧血

  • 原因検索が重要(大腸内視鏡や婦人科評価も含む)

  • 鉄剤内服(フェロミア®、フェログラデュメット®)で数ヶ月の補充

  • 消化管からの出血や腫瘍が原因の場合は、専門科紹介が必要


● POTS(体位性頻脈症候群)

POTSは起立時に急激に脈拍が上がり、午前中を中心に動悸や立ちくらみが起こる若年女性に多い疾患です[5]。症状は頭痛や腹痛などの様々な症状があります。

  • 水分・塩分摂取、弾性ストッキングの着用

  • ミドドリンやβ遮断薬(低用量)などを使用


【5】受診の目安

▶ 今すぐ受診すべきサイン

  • ・動悸が突然始まり長時間続く

  • ・胸痛・めまい・息切れ・失神を伴う

  • ・心疾患の家族歴や既往歴がある

  • ・甲状腺や貧血などの持病がある

▶ 迷ったら相談を

当院では、即日心電図・心エコーに加え、5日〜7日のホルター心電図も実施可能です。24時間ホルター心電図は院内で解析をしております。「そこまででもないけど心配」という場合も安心してご相談ください。


【6】まとめ

動悸の背景には、心房細動、不整脈、心不全、甲状腺異常などの重篤な疾患が潜んでいることがあります。
以下のような方は特に注意が必要です:

  • ・高血圧・糖尿病・脂質異常症のある方

  • ・喫煙歴がある方

  • ・心疾患や脳梗塞の家族歴がある方

  • ・ストレス・睡眠不足が多い方

  • ・貧血・甲状腺疾患の指摘を受けたことがある方


☑ 動悸が続くなら「循環器内科」へ

当院では、循環器専門医が心電図・ホルター・心エコー・血液検査を組み合わせて的確に診断し、必要に応じて基幹病院と連携した医療の提供も可能です。

不安な症状は我慢せず、お気軽にご相談ください。 

  文責:たに内科・循環器・消化器クリニック                                  院長 谷信彦


【参考文献】

[1] 日本循環器学会/日本不整脈心電学会 編. 不整脈の診療ガイドライン(2020年)
[2] 日本甲状腺学会. 甲状腺機能亢進症診療ガイドライン(2019年)
[3] MSDマニュアル. 動悸(Palpitations)
[4] 日本循環器学会. 心不全治療ガイドライン(2021年)
[5] UpToDate: Evaluation of palpitations in adults