寒くなると血圧が上がるのはなぜ?冬の高血圧対策を解説
はじめに
冬になると「最近血圧が高い」と感じる方が少なくありません。寒い季節に血圧が上がるのは、実は多くの方に共通する生理的な現象です。
しかし、冬の高血圧は脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを高めることが知られており、注意が必要です。
この記事では、寒さによって血圧が上昇する理由や、家庭でできる対策を循環器内科専門医が詳しく解説します。
寒いと血圧が上がる理由
1. 体温を保つための血管収縮
人の体は寒さを感じると、体温を逃さないように血管を収縮させます。
特に皮膚や手足などの末梢血管が収縮することで、血液が体の中心部に集まり、体温を維持しようとします。
その結果、全身の血管抵抗が上がり、血圧が上昇します。
この反応は自律神経によって制御されており、特に交感神経の働きが活発になります。
2. 交感神経の興奮による心拍数・血圧上昇
寒冷刺激によって交感神経が優位になると、心拍数や心収縮力が高まり、血圧がさらに上がる傾向があります。
寒い朝に血圧が高くなりやすいのはこのためです。
とくに高齢者や動脈硬化のある方では、血管の柔軟性が低下しており、上昇幅が大きくなる傾向があります。
3. 入浴・トイレ・起床時の急激な変動
冬は血圧の“変動”にも注意が必要です。
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寒い脱衣所での着替え → 熱い湯船への入浴
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寒いトイレでのいきみ
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起床直後に寒い部屋で活動を始める
これらのタイミングでは、急激な血圧変化が起こり、失神・脳卒中・心筋梗塞の誘因となることがあります。
冬の高血圧が危険な理由
1. 脳卒中・心筋梗塞が増える季節
日本では、冬季に脳卒中・心筋梗塞の発症が増えることが多くの研究で報告されています。
その主な要因が「季節性血圧上昇」です。
寒暖差によって血管が急に収縮・拡張を繰り返すことで、血管内皮へのストレスやプラーク破綻が起こりやすくなります。
2. 家庭血圧と診察室血圧の差
寒い朝に測ると、家庭血圧が診察室より高い“早朝高血圧”が出ることも珍しくありません。
この早朝高血圧は、脳心血管イベントの発症と強く関連しており、冬場ほど注意すべきポイントです。
冬の血圧対策:家庭でできる7つのポイント
1. 室温を一定に保つ
血圧変動の最大の原因は急激な温度変化(ヒートショック)です。
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・室温は18〜20℃以上を目安に
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・トイレ・脱衣所にも小型ヒーターを設置
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・寝室と居間の温度差をなくす工夫を
特に高齢者の方は、家全体の温度管理が命を守る対策となります。
2. 起床直後の動作はゆっくり
朝起きてすぐ立ち上がると、血圧が急上昇しやすくなります。
目が覚めたら、布団の中で軽く手足を動かし、ゆっくり起き上がる習慣をつけましょう。
3. 入浴は「ぬるめ・ゆっくり」
熱いお湯(42℃以上)は血圧の急上昇を招きます。
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・お湯は38〜40℃程度
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・肩まで浸かる時間は10〜15分以内
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・脱衣所を温め、湯船に入る前にかけ湯を
こうした工夫でヒートショックを防げます。
4. 塩分のとりすぎに注意
冬は鍋料理・汁物・漬物など、塩分の多い食事が増えがちです。
1日の塩分摂取量は、
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男性:7.5g未満
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女性:6.5g未満(日本高血圧学会推奨)
を目標にしましょう。
出汁のうま味を生かした薄味や減塩調味料の活用が有効です。
5. 適度な運動を継続
寒い季節でも、軽い有酸素運動(ウォーキング・体操)を続けることで血圧が安定しやすくなります。
ただし、寒い屋外に出る前は室内で準備運動を行い、防寒対策を十分にしてください。
6. 飲酒・喫煙に注意
アルコールは一時的に血管を拡張させるものの、反動で交感神経が活性化し血圧が上がります。
また、喫煙は血管収縮を引き起こし、心筋梗塞・脳卒中リスクを増加させます。
7. 家庭血圧を記録する
冬こそ家庭血圧の記録が大切です。
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朝:起床1時間以内、排尿後、服薬前
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夜:就寝前
に測定し、2回ずつ測って平均を取ります。
記録をもとに主治医と相談することで、冬の血圧変動を正確に把握できます。
冬に注意すべき症状
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・朝方の頭痛・肩こり
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・めまい・ふらつき
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・胸の圧迫感や動悸
これらは血圧変動や循環器疾患の初期サインである可能性があります。
特に「起床時や寒い場所での胸痛・息切れ」は狭心症・心筋梗塞の前兆のこともあるため、早めの受診が重要です。
医師からのまとめ
冬に血圧が上がるのは自然な反応ですが、慢性的な高血圧や急激な血圧変動は命に関わる合併症を引き起こすこともあります。
家庭血圧のチェックと生活環境の工夫で、冬でも安定した血圧を保ちましょう。
もし「最近血圧が高い」「朝だけ上がる」「めまい・動悸がする」といった症状がある場合は、早めの相談をおすすめします。
【一宮市での高血圧・循環器のご相談は】
たに内科・循環器・消化器クリニックでは、循環器専門医による高血圧・動脈硬化の精密評価を行っています。
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・家庭血圧の解析
- ・冬場の血圧管理アドバイス
を通して、脳心血管疾患の予防に取り組んでいます。
寒い季節に血圧が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
たに内科・循環器・消化器クリニック 循環器内科専門医・総合内科専門医 谷信彦
参考文献
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1.日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2025(JSH2025).
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2.Umemura S, et al. Hypertension Research. 2019;42(9):1235–1481.
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3.Kario K, et al. Seasonal variation of blood pressure and cardiovascular events in Japan. J Hypertens. 2020.
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4.厚生労働省:ヒートショック対策マニュアル 2023.