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機能性ディスペプシアとは?原因・症状・治療法をわかりやすく解説

消化器内科

「なんとなく胃の調子が悪い…でも検査では異常がない」といった経験はありませんか?
そんな症状の背景にあるかもしれないのが、「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)」です。
この記事では、機能性ディスペプシアの症状・原因・診断・治療法について、内科・消化器病専門医の立場からわかりやすく解説します。


機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシア(FD)は、胃の痛みや不快感、膨満感、早期飽満感などの「慢性的な上腹部の症状」があるにもかかわらず、胃カメラや血液検査などの検査では明らかな異常が見つからない状態を指します。

機能性ディスペプシアの定義

  • 過去3か月間に、以下のいずれかの症状が週に数回以上みられる

    • ・食後膨満感

    • ・早期飽満感(少量で満腹になる)

    • ・心窩部痛(みぞおちの痛み)

    • ・心窩部灼熱感(みぞおちが焼けるような感じ)

  • ・症状が少なくとも6か月前から始まっている

  • ・胃内視鏡検査などで器質的疾患(胃潰瘍、がんなど)が否定されている


主な症状

機能性ディスペプシアの症状は、日常生活に支障をきたすほどつらい場合があります。代表的な症状は以下のとおりです。

症状 説明
食後膨満感 食後に胃が張って苦しい
早期飽満感 少量で満腹になり、食事が進まない
みぞおちの痛み・不快感 胃の辺りに重さや痛みを感じる
胃もたれ・吐き気 胃がスッキリせず気持ち悪い

機能性ディスペプシアの原因

機能性ディスペプシアは「機能的」な異常によって生じるため、明確な原因は解明されていませんが、以下のような複数の因子が関与すると考えられています。

胃の運動異常(胃排出遅延)

食後に胃の内容物が小腸へスムーズに送られないため、膨満感や吐き気が生じます。

胃の知覚過敏

通常なら気にならない程度の刺激でも、強く不快に感じてしまう状態です。

ストレス・自律神経の乱れ

心身のストレスが胃の機能に影響し、症状を引き起こします。

食生活・生活習慣

脂っこい食事、早食い、飲酒、喫煙、睡眠不足なども誘因になります。


機能性ディスペプシアのタイプ

FDは大きく2つのタイプに分類されます。

タイプ 特徴
食後愁訴症候群(PDS) 食後の膨満感や早期飽満感が中心。比較的女性に多い。
心窩部痛症候群(EPS) みぞおちの痛みや灼熱感が中心。空腹時に強くなる傾向あり。

タイプによって治療薬の選択肢も変わるため、医師の診断が重要です。


機能性ディスペプシアの診断方法

機能性ディスペプシアは「除外診断」と呼ばれ、他の病気を否定して初めて診断がつきます。

主な検査内容

  • ・問診・診察:症状の詳細を確認

  • ・胃カメラ(上部内視鏡検査):胃潰瘍、がん、逆流性食道炎などの除外

  • ・ピロリ菌検査:呼気テスト・血液検査・内視鏡での生検など

  • ・血液検査・腹部超音波検査:他の内臓疾患の有無をチェック


機能性ディスペプシアの治療

治療の基本は、症状に応じた薬物療法と生活習慣の見直しです。

薬物療法

薬の種類 作用 適応タイプ
消化管運動改善薬(アコチアミドなど) 胃の動きを促進 食後愁訴型
酸分泌抑制薬(PPIやP-CABなど) 胃酸の分泌を抑える 心窩部痛型
漢方薬(六君子湯、半夏瀉心湯など) 胃腸の働きを整える 両タイプに有効
抗不安薬・抗うつ薬 胃の知覚過敏やストレス軽減 難治性の症状に有効

症状のタイプや重症度に応じて、これらを組み合わせて治療を行います。

ピロリ菌除菌

ピロリ菌が陽性の方には、除菌治療が推奨されます。除菌により症状の改善が期待されるケースも報告されています。


生活習慣の見直しがカギ

薬だけでなく、日常生活の改善も非常に重要です。以下のポイントに気を付けましょう。

食事の工夫

  • ・少量ずつゆっくり食べる

  • ・脂っこい・刺激物を控える

  • ・規則正しい食生活を心がける

ストレス対策

  • ・睡眠をしっかりとる

  • ・無理せず自分のペースで生活

  • ・深呼吸や軽い運動、趣味でリラックス

喫煙・飲酒の制限

胃の粘膜を刺激するため、禁煙・節酒が望まれます。


医療機関を受診すべきタイミング

「検査で異常がないから大丈夫」と思われがちですが、以下のような場合には早めの受診が必要です。

  • ・体重が急激に減ってきた

  • ・吐血や黒い便が出る

  • ・食事がとれないほどの症状が続く

  • ・市販薬で改善しない胃の不調が1か月以上続く

他の重篤な疾患が隠れている可能性もあるため、我慢せず専門医に相談しましょう。


機能性ディスペプシアは「上手に付き合う」ことが大切

機能性ディスペプシアは完治が難しいケースもありますが、適切な診断と治療、生活習慣の工夫で多くの方が症状をコントロールできます。「ただの胃もたれ」と軽視せず、つらい症状がある場合はお気軽にご相談ください。


まとめ

  • 機能性ディスペプシアは検査では異常が見つからない胃の不調

  • 食後の膨満感、早期満腹感、心窩部痛などが主な症状

  • 治療は薬物療法と生活改善が中心

  • 症状が長引く場合は専門医の診断を受けることが重要

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  • 文責 たに内科・循環器・消化器クリニック   
  • 副院長 総合内科専門医/消化器病専門医   谷佐世

引用・参考文献

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  6. 中村光男. 「六君子湯は機能性ディスペプシアに有効か?」. 日本東洋医学雑誌. 2012;63(5):747–752.