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異型狭心症とは?夜間や早朝の胸痛に注意を

循環器内科

はじめに

「夜中や明け方に胸が締め付けられるように痛む」「寒い日に突然胸が苦しくなる」——こうした症状がある場合、異型狭心症(冠攣縮性狭心症)の可能性があります。
通常の労作性狭心症とは異なり、安静時に発作が起こるのが特徴です。
この記事では、その原因・症状・検査・治療法を循環器専門医の視点からわかりやすく解説します。


1. 異型狭心症とは

異型狭心症は、冠動脈が一時的に強く収縮(攣縮)して血流が減少し、心筋が酸素不足に陥ることで発作を起こす病気です。英語では「vasospastic angina」または「Prinzmetal angina」と呼ばれます。

冠動脈に動脈硬化があってもなくても起こり、夜間や早朝の安静時に発作が生じやすい点が特徴です。胸の圧迫感や締めつけ感は数分〜10分程度で自然に軽快することもありますが、重症例では不整脈や失神を伴うこともあります。


2. 労作性狭心症との違い

特徴 異型狭心症 労作性狭心症
発作のタイミング 安静時(特に夜間・早朝) 運動・階段・労作時
原因 冠動脈の攣縮(スパズム) 冠動脈の狭窄(動脈硬化)
心電図変化 ST上昇型 ST低下型が多い
ニトログリセリン反応 速やかに改善 効果があることも
動脈硬化の程度 軽度〜正常 中等度〜高度

このように、同じ「狭心症」でも発症機序が異なるため、治療法も異なります。


3. 主な原因と危険因子

① 喫煙

最も重要な危険因子です。タバコのニコチンが血管を収縮させ、冠攣縮を誘発します。

② 自律神経の変動

夜間~早朝にかけて、副交感神経優位から交感神経優位へと切り替わるタイミングで冠動脈が過敏になり、攣縮が起こりやすくなります。

  • 副交感神経優位の時間帯では、冠動脈平滑筋が敏感な状態になり、軽い刺激でも収縮しやすくなります。

  • そこに交感神経が急激に活性化(起床時や明け方)すると、カテコラミンの増加や内皮機能の変化を介して冠攣縮が誘発されます。

このように、「副交感神経優位→交感神経活性化」という自律神経の急変動そのものが発作のトリガーと考えられています。

③ 寒冷刺激・ストレス

寒冷刺激(冬の朝の外出など)や精神的ストレス、過労が発作を引き起こすことがあります。

④ 薬剤・アルコール

過度な飲酒後や、断酒後のリバウンド、あるいはトリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)・交感神経刺激薬などが攣縮を誘発することがあります。

⑤ 動脈硬化性疾患

高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は冠動脈の内皮機能を低下させ、攣縮を起こしやすくします。


4. 症状

  • ・胸の締め付け、圧迫感、灼熱感

  • ・左肩・腕・顎への放散痛

  • ・発作は夜間や早朝に多い

  • ・数分〜10分程度で自然軽快することが多い

  • ・発作時に冷汗・動悸・吐き気を伴うこともある

  • ・稀に失神・心室性不整脈を伴い、突然死の原因となることも

発作中の心電図ではST上昇を示すことが多く、急性心筋梗塞との鑑別が重要です。


5. 検査

① 心電図・ホルター心電図

発作中にST上昇が認められれば診断に有用です。夜間の発作を捉えるため、24時間ホルター心電図を装着することがあります。

② 冠動脈造影+薬物負荷試験

冠動脈に固定的狭窄がないかを確認し、アセチルコリンやエルゴノビンを投与して攣縮を誘発します

③ 採血

トロポニンやCK-MBで心筋障害の有無を確認。脂質・血糖など動脈硬化リスクの評価も行います。


6. 治療

① 薬物治療

  • カルシウム拮抗薬(第一選択)
     ジルチアゼム、アムロジピン、ベラパミルなど。冠動脈平滑筋を弛緩させ、攣縮を予防します。

  • 硝酸薬(ニトログリセリン、ISDNなど)
     急性発作時に舌下投与で速やかに症状を改善。長期予防にも用いられます。

  • スタチン
     内皮機能を改善し、再発を抑える可能性が報告されています。

  • β遮断薬の使用は注意
     特に非選択的β遮断薬は冠攣縮を悪化させることがあり、注意が必要です。

② 生活習慣の改善

  • ・禁煙の徹底(喫煙は最大の危険因子)

  • ・過度な飲酒の回避

  • ・寒冷時の屋外活動を避ける

  • ・睡眠リズムの安定、ストレスの軽減

  • ・規則正しい生活と十分な休養


7. 合併症と予後

異型狭心症は一見軽症に見えても、発作時に重篤な不整脈や心室細動を起こすことがあるため注意が必要です。
特に、冠攣縮が複数の冠動脈枝に及ぶ場合や夜間発作が頻発する場合は、突然死リスクが高いとされています。

薬物治療によって多くの患者は良好な経過をたどりますが、再発率は20〜30%程度あり、定期的なフォローが大切です。


8. 異型狭心症を疑ったら

次のような症状がある方は、早めに循環器内科を受診してください。

  • ・夜間・明け方に胸が痛む

  • ・ニトロ舌下で症状がすぐ軽くなる

  • ・喫煙者で最近胸部違和感が増えた

  • ・運動とは無関係に胸の圧迫感がある

とくに、胸痛が15分以上続く・冷汗・呼吸苦・失神を伴う場合は、心筋梗塞の可能性もあるため救急外来受診が必要です。


9. 当院での対応

当院では、異型狭心症を含む胸痛の精査を行っています。

  • ・安静時・運動時・夜間の心電図評価

  • ・24時間ホルター心電図による発作記録

  • ・基幹病院との連携による冠動脈造影検査

  • ・再発予防のための薬物治療と生活指導

「夜間や明け方の胸痛」は決して軽視できません。
早期診断と適切な治療で、重大な心疾患を予防できます。


まとめ

異型狭心症は、自律神経の変動により冠動脈が一過性にけいれん(攣縮)することで起こる安静時狭心症です。
喫煙や寒冷、ストレスが発作の引き金となり、夜間・早朝に発症しやすいのが特徴です。
カルシウム拮抗薬や硝酸薬による治療により多くの方は良好な経過を得られますが、再発予防のための生活改善も欠かせません。

胸の違和感や夜間の痛みを感じたら、自己判断せず、循環器専門医にご相談ください。

 

たに内科・循環器・消化器クリニック                                                                                    循環器内科専門医・総合内科専門医 谷信彦

【参考文献】

  1. 1.日本循環器学会. 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2023年度改訂版).

  2. 2.Yasue H, Kugiyama K. Coronary spasm: Clinical features and pathogenesis. Intern Med. 1997;36(10):760–765.

  3. 3.Lanza GA, Careri G, Crea F. Mechanisms of Coronary Artery Spasm. Circulation. 2011;124(16):1774–1782.

  4. 4.JCS 2023 冠攣縮性狭心症ガイドライン.