睡眠時無呼吸症候群と循環器・消化器疾患の深い関係とは?
「いびきがひどい」「日中眠くて集中できない」といった症状に心当たりはありませんか?
もしかするとそれは、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)かもしれません。
睡眠時無呼吸症候群は単なる“いびき”の問題ではありません。
心臓病や高血圧、胃腸の不調など多くの病気と関係していることが分かってきています。
この記事では、循環器疾患(心臓・血管系)と消化器疾患(胃腸など)に着目して、睡眠時無呼吸症候群の持つ“隠れたリスク”を詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは?
いびきだけでは済まない「無呼吸」
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に10秒以上の「無呼吸」や「低呼吸(呼吸が浅くなる状態)」が繰り返される病気です。
特に多いのは「閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSA)」で、喉の筋肉が緩むことにより空気の通り道が狭くなり、呼吸が止まるタイプです。
よくある症状
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・激しいいびき
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・睡眠中の呼吸停止
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・日中の強い眠気
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・集中力の低下
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・起床時の頭痛やだるさ
このような症状が続いている場合は、医療機関での検査が必要です。
睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患の関係
1. 高血圧との関連性
睡眠時無呼吸症候群の方は、高血圧を合併していることが非常に多いです。
特に、夜間や早朝の血圧が高い「早朝高血圧」や「夜間高血圧」は、SASの典型的なパターンです。
無呼吸状態になると、酸素不足から交感神経が活性化し、血圧が上がります。これが一晩中繰り返されることで、慢性的な高血圧につながります。
✅ ポイント:降圧薬を内服しても血圧がなかなか下がらない場合、SASの関与を疑うことが大切です。
2. 心不全・不整脈との関連
睡眠時無呼吸症候群は、心房細動などの不整脈のリスクを高めることが知られています。
また、無呼吸により心臓への負荷が増し、心不全の進行を加速させる恐れもあります。
とくに「心不全+日中の眠気」がある患者さんには、SASの評価が重要です。
3. 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
酸素不足は心臓の冠動脈に負担をかけ、狭心症や心筋梗塞の引き金になることがあります。
実際、心筋梗塞で入院した患者の多くにSASが見つかるという報告もあります。
睡眠時無呼吸症候群と消化器疾患の関連
1. 胃食道逆流症(GERD)
SASと消化器疾患の中でも特に注目されているのが胃食道逆流症(GERD)です。
無呼吸により胸腔内圧が下がると、胃の内容物が逆流しやすくなり、胸やけや喉の違和感、咳の原因になります。
✅ ポイント:逆流性食道炎が夜間に悪化する場合、SASの存在を疑う必要があります。
2. 過敏性腸症候群(IBS)
明確なメカニズムはまだ研究段階ですが、SASによる睡眠の質の低下や交感神経の活性化が腸の運動異常に影響している可能性があります。
ストレスや自律神経の不調が重なることで、IBSの症状が増悪することもあるため、睡眠の質は重要な治療要素といえます。
3. 肝機能障害(NAFLD)
肥満やメタボリックシンドロームとSASは密接に関連しており、それが非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の悪化要因にもなります。酸素不足によって肝臓の代謝に悪影響を及ぼすことが知られています。
睡眠時無呼吸症候群の診断と治療
検査方法
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簡易睡眠検査(自宅でできるタイプ 約3,000円)
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ポリソムノグラフィー(PSG:精密検査)
AHI(無呼吸低呼吸指数)が5以上で診断されます。
当院ではまず簡易検査を行い、検査結果に応じて追加検査や治療を提案いたします。
主な治療法
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・CPAP(シーパップ)療法
鼻に装着したマスクから空気を送り、気道の閉塞を防ぐ治療。重症SASの第一選択です。 -
・マウスピース治療(口腔内装置)
軽症〜中等症で、歯科にて作成。下顎を前方に出すことで気道を確保します。 -
・生活習慣の改善
減量、禁酒、禁煙、横向きでの就寝なども有効です。
睡眠時無呼吸症候群が疑われたら
以下のような方は、医師に相談することをおすすめします:
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・いびきが大きいと家族に言われる
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・夜中に呼吸が止まっていると指摘された
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・日中の強い眠気や集中力の低下がある
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・高血圧や心不全が治療抵抗性である
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・胸やけ・逆流症状が寝ているときに悪化する
まとめ:SASは“全身病”ととらえるべき
睡眠時無呼吸症候群は、単なる睡眠障害ではなく、心臓や血管、胃腸にまで影響する「全身の病気」です。
特に高血圧・心不全・GERD・NAFLDなどの持病をお持ちの方は、SASの存在が病状のコントロールを難しくしている可能性があります。
たに内科・循環器・消化器クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査・精密検査・治療まで一貫して対応可能です。
気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
文責 たに内科・循環器・消化器クリニック 循環器内科専門医 総合内科専門医 院長 谷信彦
引用・参考文献
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一宮市公式ホームページ|健康と医療
https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/