血圧の薬は一度飲み始めたら一生やめられない?
「血圧の薬は一度飲み始めたら、一生飲み続けないといけないんですよね?」
高血圧の患者さんから外来で非常によく受ける質問です。薬を飲み始めることに不安を感じるのは当然で、「できれば飲みたくない」「やめられるならやめたい」と思われる方も多いでしょう。
結論から言うと、血圧の薬は必ずしも一生やめられないわけではありません。
ただし、「誰でも」「簡単に」「自己判断で」やめてよいものではない、というのが正確な答えです。
この記事では、
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・なぜ「一生やめられない」と言われるのか
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・実際にやめられる人・やめにくい人の違い
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・薬をやめることを考える前に知っておいてほしいポイント
について、循環器内科専門医の立場からわかりやすく解説します。
なぜ「血圧の薬は一生」と言われるのか?
高血圧は“治る病気”ではなく“管理する病気”
高血圧は、風邪や感染症のように「治療すれば元に戻る」病気ではありません。
多くの場合、加齢・体質・生活習慣が複雑に絡み合って起こる慢性疾患です。
特に日本人は、
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・塩分摂取量が多い
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・加齢とともに血管が硬くなる
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・遺伝的に高血圧になりやすい
といった背景があり、年齢とともに血圧が上がりやすい傾向があります。
そのため、「薬を飲んで血圧が下がった=治った」と考えてしまうと、
薬をやめた途端に再び血圧が上がる、ということが起こります。
薬をやめると、ほとんどの場合血圧は再上昇する
血圧の薬は、
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・血管を広げる
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・心臓への負担を減らす
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・体内の塩分・水分バランスを調整する
といった作用によって、飲んでいる間だけ血圧を下げているものです。
原因そのもの(体質や血管の老化)が消えているわけではないため、薬を中止すれば、元の血圧に戻るのは自然な流れです。
これが、「一度飲み始めたら一生」と言われる理由です。
それでも「やめられる人」はいる?
生活習慣の改善で薬が不要になるケース
一方で、次のような方では、血圧の薬を減量・中止できることがあります。
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・軽症高血圧(140/90mmHg前後)
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・若年〜中年で、血管の動脈硬化が進んでいない
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・体重減少(特に内臓脂肪の減少)に成功した
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・塩分制限・運動習慣がしっかり継続できている
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・ストレス要因が明確で、それが改善した
例えば、
「体重を10kg落としたら血圧が下がり、薬が不要になった」
「仕事環境が変わり、ストレスが減って血圧が安定した」
というケースは、実際の診療でも経験します。
ただし、これは少数派であり、条件がそろった場合に限られます。
二次性高血圧では“やめられる”ことがある
高血圧の中には、
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・ホルモン異常(原発性アルドステロン症)
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・腎臓の病気(腎動脈狭窄)
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・睡眠時無呼吸症候群
など、原因がはっきりしている「二次性高血圧」があります。
この場合、原因疾患を治療することで、
血圧の薬が不要になる、あるいは大幅に減らせることがあります。
そのため、
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・若くして急に血圧が高くなった
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・薬を飲んでもなかなか下がらない
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・低カリウム血症を伴う
といった場合には、原因検索が重要です。
「やめられない人」の特徴
一方、次のような方では、薬をやめることは難しいのが現実です。
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・高齢の方
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・動脈硬化が進行している
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・糖尿病・脂質異常症・喫煙歴がある
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・心臓病や脳梗塞の既往がある
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・家庭血圧が常に高い
これらの方では、血圧を下げる目的は
「数値を下げること」ではなく、脳卒中・心筋梗塞・心不全を防ぐことにあります。
そのため、血圧の薬は「治療薬」であると同時に、将来の病気を防ぐ予防薬でもあります。
「薬を飲み続けること」は本当に悪いこと?
血圧の薬=体に悪い、ではない
「薬はなるべく飲みたくない」
「長期間飲むと腎臓や肝臓に悪そう」
こうした不安を持つ方も少なくありません。
もちろん薬による副作用は誰にでも起きうる可能性はありますが、日々の診察の中で問診や必要があれば血液検査等を用いて確認いたします。そして、現在使われている降圧薬の多くは、海外や国内での大規模な試験により長期使用の安全性が確立されています。
むしろ、
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・高血圧を放置すること
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・血圧が高い状態が何年も続くこと
の方が、体に悪影響を及ぼします。
血圧を下げることで守っているもの
血圧の薬によって守られているのは、
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・脳(脳出血・脳梗塞)
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・心臓(心筋梗塞・心不全)
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・腎臓(腎不全・透析)
といった、一度悪くなると元に戻らない臓器です。
症状がないからといって血圧を放置すると、ある日突然、重大な病気として表面化することがあります。
自己判断でやめるのはNG
血圧の薬を
「最近調子がいいから」
「数値が下がったから」
という理由で自己中断するのは非常に危険です。
急激な血圧上昇により、
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・脳卒中
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・心不全の悪化
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・狭心症発作
を引き起こすことがあります。
減量・中止を検討する場合は、
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・家庭血圧の記録
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・生活習慣の評価
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・合併症の有無
を確認した上で、医師と相談しながら段階的に行う必要があります。
まとめ:血圧の薬は「一生」ではなく「必要な期間」
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血圧の治療は、「薬を飲む・飲まない」という二択ではありません。
大切なのは、今の血圧がご自身の体にとって安全かどうか、そして将来の心臓病や脳卒中のリスクをどう下げていくかです。「このまま薬を飲み続ける必要があるのか」
「生活習慣を見直せば減らせる可能性はあるのか」
「そもそも今の治療方針が自分に合っているのか」当院では、高血圧をはじめとする生活習慣病について、
まず原因をしっかりと評価することを大切にしています。生活習慣の影響だけでなく、背景に病気が隠れていないか、
年齢や合併症、家庭血圧の状況などを総合的に確認した上で治療方針を決定します。そのうえで、生活習慣の改善のみで経過をみられる方には無理に薬は使用せず、降圧治療が必要と判断される場合には、リスクと効果をご説明した上で適切に降圧薬を導入します。また、自己判断での中止による危険性についても、十分にご説明しながら診療を行っています。
血圧の薬について不安や疑問がある方、健診で血圧を指摘されたもののどうすればよいかわからない方は、
どうぞお気軽に当院までご相談ください。
たに内科・循環器・消化器クリニック 循環器内科専門医・総合内科専門医 谷信彦
引用文献
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1.日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版.
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2.日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(改訂版).
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3.Law MR, et al. Effect of blood pressure lowering on cardiovascular risk. Lancet. 2009.
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4.Ettehad D, et al. Blood pressure lowering for prevention of cardiovascular disease. Lancet. 2016.






