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高血圧の食事療法とは?食事だけでは不十分なケースも専門医が解説

循環器内科

 

はじめに

高血圧は日本人に非常に多い生活習慣病であり、放置すると心筋梗塞や脳卒中など命に関わる合併症を引き起こします。
そのため、血圧を下げるための第一歩として「食事療法」がよく勧められます。

しかし、食事だけでは十分に改善できない場合があることも事実です。この記事では、食事療法の基本、エビデンスに基づいた実践ポイント、そして薬物療法が必要となるケースについて循環器内科専門医がわかりやすく解説します。


減塩 ― ナトリウム摂取を控える

  • 目標量:1日6g未満(日本高血圧学会推奨)

  • 食塩相当量1g ≒ ナトリウム400mg

  • 加工食品や外食に多く含まれる「隠れ塩分」に注意

減塩の工夫

  • しょうゆ → 減塩しょうゆ(50%カット)

  • みそ汁 → 1日1杯まで、だしを効かせて薄味に

  • 漬物や梅干し → できるだけ控える

  • 外食 → スープを飲み干さない

👉 栄養学的には、塩分摂取量を1日6g未満にすると、収縮期血圧が平均4〜6mmHg低下すると報告されています。


カリウム ― ナトリウムを体外に排出する

  • 働き:体内の余分なナトリウムを排出し、血圧を下げる

  • 推奨摂取量:成人で1日3000〜3500mg(WHO推奨)

カリウムが豊富な食品

  • 野菜:ほうれん草、ブロッコリー、かぼちゃ

  • 果物:バナナ、キウイ、アボカド

  • 豆類:大豆、枝豆、レンズ豆

👉 腎臓病のある方では過剰摂取に注意が必要なので、医師に確認が必要です。


カルシウム ― 血圧を安定させる

  • 働き:血管の収縮を抑える作用がある

  • 推奨摂取量:成人男性650〜800mg、女性650mg(日本人の食事摂取基準2025年版)

カルシウムが豊富な食品

  • 牛乳・ヨーグルト・チーズなど乳製品

  • 小魚(ししゃも、しらす干し)

  • 緑黄色野菜(小松菜、チンゲンサイ)

👉 カルシウム不足は血圧上昇に関連するとされており、毎日の食事に意識して取り入れたい栄養素です。


マグネシウム ― 血管を拡張させる

  • 働き:血管平滑筋を弛緩させ、血圧を下げる効果

  • 推奨摂取量:成人男性340〜370mg、女性270〜290mg

マグネシウムが豊富な食品

  • 海藻類(わかめ、ひじき、昆布)

  • ナッツ類(アーモンド、カシューナッツ)

  • 豆類(大豆、納豆)

  • 全粒穀物(玄米、雑穀米)


食物繊維 ― 体重管理と血圧改善に有効

  • 働き:腸内環境改善、肥満予防、塩分の排出促進

  • 推奨摂取量:男性21g以上、女性18g以上

食物繊維が豊富な食品

  • 野菜(ごぼう、キャベツ、ブロッコリー)

  • 海藻類(もずく、昆布)

  • きのこ類(しいたけ、えのき)

  • 雑穀・オートミール


アルコールとカフェインの影響

  • アルコールは適量であれば問題ありませんが、過剰摂取は血圧を上げます。

    • 男性:1日20g(日本酒1合、ビール500mL程度)まで

    • 女性:1日10g程度が目安

  • カフェインは一時的に血圧を上昇させるため、過剰摂取を避けることが推奨されます。

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  • 食事療法だけでは不十分なケース

    1. 重度の高血圧

    • 収縮期血圧160mmHg以上、拡張期100mmHg以上の場合

    • 食事療法だけでは早期の降圧が難しく、薬物治療が必要

    2. 合併症を伴う高血圧

    • 糖尿病、腎臓病、心疾患を合併している場合

    • 厳格な血圧管理が必要で、生活習慣改善だけではリスクが高い

    3. 遺伝的要因が強い場合

    • 両親ともに高血圧 → 若年から血圧が上昇しやすい

    • 食事を整えても十分な降圧が得られないことがある

    4. 生活習慣の徹底が難しい場合

    • 減塩を継続できない

    • 外食・コンビニ利用が多い

    • 不規則な生活で改善が難しい

    このような場合は、食事療法と薬物療法を組み合わせることが大切です。

  • まとめ

  • 高血圧の食事療法は「減塩」を中心に、カリウム・カルシウム・マグネシウム・食物繊維などの栄養素を意識することが重要です。しかし、食事療法だけでは十分に効果が得られないケースも多く、薬物療法との組み合わせが必要になる場合があります。健診で血圧を指摘された方や、自宅での血圧測定が高めの方は、自己判断せず専門医に相談することが大切です。

    当院では、総合内科専門医、循環器内科専門医による診察のもと

    • ・血圧測定・家庭血圧の評価

    • ・栄養学に基づいた食事指導

    • ・必要に応じた薬物療法の導入

    • ・動脈硬化や心臓・腎臓の検査

    を組み合わせて、患者さん一人ひとりに合わせた高血圧管理を行っています。

    「できるだけ薬を使わずに管理したい」「健診で血圧を指摘されたので詳しく調べたい」という方も、当院へ一度ご相談ください。早期からの適切な対応が、将来の脳卒中や心臓病の予防につながります。

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文責 たに内科・循環器・消化器クリニック                                                       循環器内科専門医 総合内科専門医 谷信彦 


参考文献

  1. 1.日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019 (JSH2019)

  2. 2.厚生労働省. 日本人の食事摂取基準 2025年版

  3. 3.Appel LJ, et al. DASH Collaborative Research Group. N Engl J Med. 1997;336:1117-24.

  4. 4.WHO. Guideline: Sodium intake for adults and children. 2012

  5. Sacks FM, et al. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the DASH diet. N Engl J Med. 2001;344:3-10.